MasukBLベースの日常物コメディ。 海外ドラマのシットコム風味を目指して、恋愛感情が入り乱れたグダグダなストーリーが展開しています。 価値観が、昭和と平成とイマドキが入り混じった現代物。 えげつない会話で笑いを狙っていますが、BLなのにロマンチックな展開は皆無。
Lihat lebih banyak朝八時、枕元に置いたスマホのアラームが鳴る。
俺は身支度を整えると、部屋を出て、上階のペントハウスへと向かう。 俺こと
「おはよう、シノさん」
ペントハウスには施錠がされていないので、俺は勝手知ったるナントカで中に入り、寝室で未だ朝寝坊を満喫しているシノさんを起こす。
「なんだよ〜、まだいーじゃんか」
「良くないの。ほら、起きて。敬一クンと、シノさんのコトちゃんと起こすって、俺は約束してるんだから!」 「ん〜、も〜、ケイちゃん余計なコトを…」ブツブツ言いながら、シノさんはベッドから抜け出した。
「エービーシーサンドでいいか?」
キッチンに立ったシノさんが言った。
シノさんが冷蔵庫から取り出したのは、近所のパン屋で買った八枚切りの食パンとクリームチーズ。 それと、バナナスタンドに下がっていたバナナだった。 棚から取り出したホットサンドメーカーに、既にパンが仕込まれている。「なにそれ?」
「アップル、バナナ、クリームチーズで、エービーシー」 「りんごが……どこに?」 「昨日、メシマズが鎌倉の有名店で買ったとかゆー、ジャムのセットを送ってきてさぁ。ちぃと味見したら、りんごジャムが結構イケたんだよ」 「同じホットサンドなら、ハムとチーズとかいわれ大根……みたいな方がいいんだけど……?」 「あ、かいわれ大根なら、ケイちゃんがそこの窓辺で育ててるぜ」シノさんは屋上にプランターの菜園を持っているけど、それに啓発でもされたのかと思ったら、窓辺に置かれているのは豆苗の根っこだった。
「シノさん、これまだ、芽が出てないよ」
「うい? そーだった? んじゃあ冷蔵庫から好きな具材を冷蔵庫の中を見ると、スライスチーズとハム、それにシノさん特製のポテサラがあった。
野菜室にしなびたかいわれ大根もあったので、具材は希望通りのものを作ってもらうことにして、俺はポテサラを器に盛る。 このポテサラは、シノさんの作り置きおかずの一つなのだが、毎回具材が違う。 ぶっちゃけ、冷蔵庫の残り物を一掃する時に作られるおかずなのだが、それが毎回なんとなく旨いので、俺の好物のひとつなのだ。それにしても一体、シノさんがいないのにミナミは、いつまでいるつもりなんだろう? というかなんでココにいるんだ? と思っていると、坂の下からホクトがやってくるのが見えた。 幽霊の正体が判明し、自警団が解散になった後、そう言えばホクトの姿をあんまり見掛けた記憶が無いし、最近ではすっかり敬一クンの大学の時間割を把握しているらしくて、今日の午前中はここに居ないことも知っているはずなのにどうしたのかと思ったら。 ホクトは俺に爽やかな挨拶をすると、スタスタとミナミの方に寄っていく。 二人天宮はまたしても店先で、あの三河漫才モドキのような諍いを起こすつもりだろうか?「わ、何を食べてるんだ南、それ東雲さんのキッシュじゃないよなあ!?」 ホクトに話掛けられてるのに返事もせず、ミナミは俺を呼び付けるみたいなチラ視線を寄越してくる。 ミナミの傍に近寄りたくない俺は、一応出資者のウェイターをしてやるべきかどうか考えてる間に、またしてもどうやって人の気配を察知したのか、奥から銀の盆を持った白砂氏が出てきた。 そしてパイとミルクティを、チャチャっとホクトの前に置いて戻ってきた。「シロタエさん、なんでまたパイを出したの?」「出資者の連れに給仕をするのは当然だ」 それってどんな三段論法なんだ? って俺が思ったら案の定、何の説明もなくいきなりアップルパイを出されたホクトが、わけが判らずキョロキョロしている。「今の人は誰だ?」「新しく雇ったパティシエ」「新しいパティシエ? 俺は聞いてないぞ?」「北斗には関係ナイ」「何言ってんだ! 関係無いならもう全部伯母さんにぶちまけて、終わりにするぞ!」「パティシエが折角出してくれたもの、試食しないの?」 ミナミを睨みつけつつ、ホクトはアップルパイを食った。「すごく美味いじゃないか! こんなパティシエどこで見つけてきたんだ? よほどの給料出さなきゃ、こんなパイを焼けるパティシエは…」「北斗うるさい」「オマエの方から呼び出しておいて、うるさいとはなんだ!」「部屋探ししてるよね」「なんでオマエがそんなこと!?」「俺の部屋、二世帯対応型マンションなんだけど、興味は?」 どうやらホクトはエビセンに出遅れた分を取り戻すため、この近隣に部屋を探しているらしい。 幽霊騒動が一段落して、この数日はきっと部屋探しに時間を使っていて
数日後。 本人曰く "介護施設への入居の手続き" を済ませた白砂氏は、マエストロ神楽坂のレンガ窯に火を入れて、実に見事なアップルパイを焼き上げた。 てっきり本営業開始なのかと思ったら、今日は窯のクセを調べるだけの試運転だと言う。 言われてみれば、シノさんのキッシュみたいにその日の気分だけで作るのでなく、ちゃんと連日営業をするつもりなら、材料の仕入れなどからキチンと決めなければならない。 レジ脇には冷蔵機能付きのショーケースも完備されているが、使っているのを見たこともないから、ちゃんと使い物になるのかどうかも調べなければならないだろう。 とはいえ、俺の受け持ちはあくまでも中古アナログレコード店の方だから、それらの詳細は白砂氏がシノさんや敬一クンと決めることだ。 そして白砂氏謹製の試作パイを最初に食べたのは、あんなに楽しみにしていたシノさんではなく、俺だった。 と言うのも、その日は即売会があり、しかもシノさんにはいつもの "ムシの知らせ" が来てしまったのだ。 白砂氏のパイに後ろ髪を引かれつつ、「絶対の絶対に俺の分を残しておけよな!」の念押しをして、シノさんは出掛けて行った。「すっご、美ン味い〜。こんなパイ焼けるシロタエさんに辞められちゃったお店、痛手が大きいんじゃない?」「このパイの味は、私の腕前以上に、あの窯の力に依るところが大きい。それに、先方の店長には大変世話になったのだが、その店長に店には戻らない方が良いと言われている」「えっ、なんで?」「ジジイが離職の手続きのために寄越した弁護士らしき代理人が、非常に強引だったと言っていた。店長が言うには、代理人の現れ方もタイミングを見計らっていたようだから、探偵なども駆使して、私の素行調査などを行っていた可能性が高いようだ」「探偵っ?!」「店長は、私がまだ未成年の頃に路上生活のようなことをしていた時、仕事と住まいを斡旋してくれた方で、帰化の手続きの時も身元引受人を引き受けてくれたりと、大恩有るのだが。あのジジイが生きている限り、私が店に留まればむしろ先方に迷惑を掛けることになる」「そんなストーカーみたいな親父さんじゃ、そうなるだろうね」「私が店を去ることは、店長も残念だと言ってくださったし、私が留まれるように力が及ばずに済まないとまで言われてしまった。私も全く恩返しが出来ず、非常に申し訳
「ティーンエイジの頃にゲイだとカミングアウトしたら、全寮制の神学校に入学させられた。その後は逃亡を図っては連れ戻されることを繰り返してきたが、色々手間も時間も掛けてようやく帰化の申請も通り、姓名も日本人名になり、改宗も済ませた。それを伝えるために連絡をしたところ、卒中で倒れたと言ってきた。そこで仏心を出したのが間違いだったのだが、一方的に家出をしたままなのも後味が悪いように思い、顔を見せに戻ったのだが。半身不随になったことを利用して、私の同情を引き、介護をさせることで家に繋ぎ止め、意見の合わない性的嗜好を矯正させるための策略だと判明したので、きっぱりと親子の縁を切ると引導を渡してやった」「おとっつぁん、背水の陣で敗北かぁ〜。ま、なんでも自分の思うとーりにしたかったら、それなりに伏線張って、アタマ下げる相手には、下げとかなきゃイカンって話だな」 シノさんはニシシと笑ってるが、俺がシロタエ氏の父親だったら "コイツには言われたくない" と反論するだろう。「ところで柊一。戻ったら話そうと思っていたのだが、実は頼みがある」「なんじゃい?」「此処に入居をする際に、いつかあの窯を使わせて欲しいと頼んだことを覚えているか?」「おうよ。でもセイちゃん、直ぐはムリつってたじゃん」「実は、父が倒れたとの連絡を受け、取る物も取り敢えず実家に戻ったのだが。先日、長期休暇の申請をしようと勤め先に連絡したところ、既に私は離職していると言われた」「えっ? それって無断欠勤とかで? いや、でも、親が倒れたって話したんだよねぇ?」「前述の通り、ジジイは私を跡継ぎにする気でいた。私が実家に戻ったタイミングで、弁護士らしき代理人を使って、勝手に離職手続きをされていた」「それは酷い。でもそういう事情なら、職場の人事部に再雇用を願い出てみては? 上手くいかないようなら、役所やハローワークで対処の相談をするくらいのことは、手伝います」 未だ現実の不合理さを知らぬ敬一クンは、腹を立てているようだ。「大丈夫さ、ケイちゃん! セイちゃんにはもっといい就職先があんだから!」「え?」「セイちゃんはパティシエなんだぜ! 最初に部屋見に来た時、俺は丁度、窯に火を入れてキッシュ焼いてたんだ。そしたらセイちゃんが、窯をちっと使わせて欲しいちゅーから、そこで一緒にランチの準備したのさ。
騒ぎを聞きつけて部屋から出てきたエビセンと、シノさんが呼んできた敬一クン、それに謎の高飛車将校の手を借りて、俺とコグマは五階のペントハウスに戻った。 そこらじゅうぶつけまくって、痣だらけだ。「それで兄さん、こちらは?」 ダイニングのデッカいテーブルの上座(?)でふんぞり返っている謎の高飛車将校は、いかにもそんな質問をされるのが心外だって感じでチラッと敬一クンを見る。「ありゃ? ケイちゃんはセイちゃんに会ったコト無かったっけか? こちらは白砂聖一さん、レンのフロアのお隣さんだよ」「シロタエさんですか…。はじめまして」 フルネームを聞いたところで、敬一クンが不思議そうな顔をしていたのも無理はない。 なぜならシロタエ氏は、詰襟の服装も白っぽいが本人の髪も真っ白な上に肌色も白く、そもそもどう見ても日本人じゃない顔立ちで、目玉なんかガラス玉みたいなスカイブルーなのだ。 態度は軍人みたいだが、気配がしないというか、動きが異様に静かでコンクリの階段を、硬そうなヒールの付いた革靴で登っている時ですら殆ど足音が聞こえないほどだったから、暗闇の中にこの人物がいたら、幽霊に見えても仕方が無いと思う…。 だが鋼の精神力を持つコックローチ・ストライカーのエビセンには、そんな言い訳は通用しなかった。「ヘタレビビリぐま! 何が幽霊だっ、普通に生きてる人間じゃねーか!」 とうとう俺もコグマもエビセンの年功序列の枠からおン出されて、人格の境界線すらなくなっている。 二人とも口を開いて何かを言う前に、腰抜けは黙っとれ! の一言で一蹴された。「そんでセイちゃん、戻って来てンのに、戻ってナイってどーいう意味?」「着替えを取りに来ていただけだ。既に何度か来ている」 参考までにシロタエ氏が着替えを取りに戻った日にちを訊ねると、幽霊の目撃日にピタリと一致した。「セイちゃんちのおとっつぁん、ソッチューだっけ? 死んだんか?」「兄さん、そんな言い方は失礼…」「いいや、いっそ死んでくれればこんなにこじれなかったんだが、あいにく生きている。半身不随で滑舌が悪くなったのに、中身は相変わらず元のままだ」 シノさんの直球すぎる問いを敬一クンが窘めるスキもなく、シロタエ氏はシノさんを上回るバットのど真ん中で、返事を打ち返した。「あ〜、なまじ生き残られてちゃ、そり
翌日はキャンパスチームの巡回だったので、ホクトが夜まで居残っていた。 ホクトは自分から図々しい態度はとらないが、居れば必ずシノさんが夕食に招くし、ホクトが夕餉に招かれると必ずエビセンもそこに参加してくるようになっていて、更に今はエビセンがコッチに来てしまうと、一人で部屋にいたくないコグマまでくっついてくる。 キャンパスチームの三人は誰も幽霊に動じてないし、体力にも自信ありげな体育会系の若者揃いだし、何があっても対処出来るだろう。 そう期待していた。 期待通りに三人は、八時から十二時までの間、一時間ごとに階段を上から下まで見回ってくれた。 だが、何事も起きなかった。 そしてとうとう今夜は、マエストロチームの巡回当番になってしまった。 シノさんの家のリビングで夕食後のコーヒーを飲みながら、俺は心の底から、どうして前日のチームの時に出てくれないんだ幽霊!! と思っていた。 たぶんコグマも思ってるだろう。「んじゃケイちゃん、そろそろ見回ってくら〜」 と言ってシノさんが立ち上がった時、俺もコグマも処刑台に連れて行かれる死刑囚みたいになっていた。 すると俺らの使ったカップを盆に集めていた敬一クンが、ふと思い出したように言った。「そういえば兄さん、昨日俺達が巡回した時、二階の踊り場のところでゴキブリが出ました」「うええええ!」「大丈夫、それは海老坂が退治しました。でもまた出るかもしれないから、驚いて階段踏み外したりしないように気をつけて」 今の今まで鼻歌まじりだったシノさんが、急に尻込みをしてしゃがみ込む。「うええええ! ヤダヤダヤダ! 行きたくなーい!」「兄さん、大丈夫だから。ほら、多聞さんに殺虫剤持ってもらいますから」「ううう…、じゃあレン、オマエ先頭行け! そんでGが出たら、速攻でぶっ殺せ! コグマは俺の前で、G避けの盾になっとれ!」 そう言って、俺とコグマを前に押し出した。 幽霊は鼻で笑い飛ばせるシノさんだが、虫類全般には非常に弱く、特にゴキブリは "ゴキブリ" と口に出すのも避けてるし、絵に描いてあるのすら怖気て逃げる。 だから殺虫剤もボトルの絵を嫌がって、自分では絶対に持たないし、使えないのだ。 悪気のない敬一クンのお陰で、マエストロチームは最悪のフォーメーションとなり、俺らはそれぞれの理由でおっかなビックリ部屋を出た。
「ぎゃーーーーーーーっ!!」「どわーーーーーーーっ!!」 雑巾を裂くような男の悲鳴二重奏が聞こえてきて、俺はベッドから落ちるほど飛び上がった。 エレベーターが格子で出来ているこのビルは、階段ががらんどうな所為で音がものすごく反響して響き渡る。 男の悲鳴二重奏がハルカとミツルなことも即座に判った。 コワイけど、見に行かないのもまたコワイので、フロアワイパーを構えて廊下に出た。 俺の部屋の前から、エレベーターのシャフト越しにフライングチームのハルカとミツルが蹲っているのが見えた。 死んでるのかと思ってビビったが、踊り場まで降りて傍でよく見たらウンウン言いつつ動いてて、腰を抜かしているだけのようだ。 そこで二人に声を掛けようとしたら、下から白っぽい顔が覗いたので、俺も悲鳴を上げそうになった。「オマエまで叫んだら殴るぞヘタレ!」 と、即座にエビセンが怒鳴る声がしたので、慌てて悲鳴を飲み込んだ。 エビセンの後ろには、コグマがくっついてきている。「コイツ、悲鳴が聞こえただけで部屋で叫びだしやがって、あったく、どんだけビビリぐまなんだか!」「海老坂クンもコワイけど、一人で部屋にいるのもコワくて!」 エビセンの背中にくっついてきたくらいだから、恐怖の大きさが容易に想像つく。 俺だってどれほど目がコワくたって、こんな幽霊騒ぎに全然動じてないエビセンの後ろに隠れたくなる。 というかエビセンがどっかのスポーツ部の主将みたいに、デッカイ声でどやしてきてる方が、ワケの解らぬ怖さが軽減される気がする。 そんなこんなで、みんなでハルカとミツルを抱えて、シノさんの部屋へ行った。 話を聞いたシノさんと敬一クンは、ビルの階段を上から下まで確かめに行ってくれたのだが、何も怪しいものは無かったと言う。「皆さんの話だと、白っぽい幽霊のようなものがスウッと消えたというのが一致してる目撃状況ですが、そうするとその幽霊のようなものはただ消えてるだけで、今のところ実害は何も無いってことですよね?」 敬一クンに言われて、俺達は顔を見合わせた。 そう言われちゃうと身も蓋もなく、何ということも無いものを見て、ビビッて騒いでいる俺達の方が変みたいな感じになってしまう。 俺は一所懸命に、そうじゃなくて! という説得を試みた。「ケド、でも、ほら! ゴキブリだって、出るだけで刺した
Komen